はめあい公差は、部品の「きつさ」や「ゆるさ」を決定づける設計の要です。不適切な設定は、異音や焼き付きといった不具合を招くだけでなく、製造コストの増大にも直結するため、理論と実務の両面から正しく理解する必要があります。
本コラムでは、はめあいの基本タイプや穴基準方式のメリット、実務での選定のコツなどを解説します。
この記事でわかること
- はめあい公差の3つの種類と具体的な用途
- 軸よりも「穴の公差」を先に決めることが多い理由
- 図面記号と精度等級について
- 熱膨張や材料特性を考慮した実務的な選定のコツ
目次
はめあい公差とは
はめあい公差は、軸を穴に差し込んだ際における公差(許容範囲)の組み合わせを示した記号(例:H7/g6 などの公差クラスの組合せ)で、部品を組み合わせた際の「きつさ」や「ゆるさ」を調整するための指標です。全く誤差のない加工は現実的ではないため、あらかじめ機能を満たすための許容範囲(公差)を定めておく必要があります。
はめあい公差を適切に定めていない場合、部品同士が固定されず精度が悪くなったり、動かした際の異音や振動につながったり、摩擦が強すぎて焼き付いたりと、製品のトラブルにつながります。あらかじめ、適切なはめあい公差を定義しておくことが重要です。
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はめあい公差の基本的な3つの種類
製品に求める動きや固定の状態によって、適切な「はめあい」の種類が存在します。代表的なものは以下の3つです。
| はめあいの種類 | 特徴 | 主な機能 | 代表的な組み合わせ |
| すきまばめ | 常に隙間がある | 回転・摺動・容易な組立 | H7/g6、H8/f7 |
| 中間ばめ | 隙間または微締まり | 高精度な位置決め | H7/js6、H7/k6 |
| しまりばめ | 常に締め代がある | 強固な固定・トルク伝達 | H7/p6、H7/s6 |
1.すきまばめ
「すきまばめ」は、穴の最小寸法よりも軸の最大寸法が常に小さい状態を指します。組み立てた際に必ず隙間が生じるため、部品同士が相対的に動く機構に適しているのが特徴です。
例えば、穴を「H7」に固定した場合、軸を「g6」や「f7」などに設定すると「すきまばめ」になります。
「すきまばめ」は、回転するシャフトのように、スムーズな動作が求められる箇所に採用されます。摩擦や摩耗を抑えるために適正な隙間を確保することが、円滑な機能維持において極めて有効な手段となるのです。
2.しまりばめ
「しまりばめ」は、軸の外径が穴の内径よりも大きく設計される組み合わせです。組み立てにはプレス機による圧入や、部材を加熱して広げる「焼き嵌め」といった特殊な工程が伴います。
例えば、穴を「H7」に固定した場合、軸を「p6」や「s6」などに設定すると「しまりばめ」になります。
「しまりばめ」は一度固定すると取り外しにくくなるため、歯車を軸に固着させる場面や、ベアリングの外輪固定などに多用されています。強固な固定力を得る反面、部品への負荷も大きくなるため、材料強度を見極めた慎重な数値設定が求められます。
関連記事:焼き嵌めとは?仕組み、公差としめしろの計算方法を解説
3.中間ばめ
「中間ばめ」は、加工のばらつきによって隙間が生じることもあれば、わずかに締まることもある微妙なはめあいです。理論上は隙間がほぼゼロに近くなるため、高い位置決め精度を確保したい箇所に最適といえます。
例えば、穴を「H7」に固定した場合、軸を「js6」「k6」「m6」「n6」などの公差域クラスに設定すると「中間ばめ」になります。この場合、「js6」になるほど「すきま」が、「n6」になるほど「しめしろ」が生じやすくなります。
「中間ばめ」は、具体的に機械の基準となるノックピンの差し込みや、治具の組み立てなどに利用されます。
はめあい記号の構成と精度等級
図面に記載されたアルファベットや数字が何を意味するのかを正確に把握することも重要です。
図面に「40H7/g6」と記載されている場合、基準寸法が40mmであることを示しています。ここで、大文字の「H」は穴の公差域、小文字の「g」は軸の公差域を表し、続く数字は「IT基本公差等級」という精度の幅を意味します。
等級の数字が小さくなるほど加工精度は高まりますが、製造コストも増大する傾向があります。そのため、機能維持に必要な精度を確保しつつ、予算とのバランスを見極めて最適な等級を選定することが、設計実務において重要な視点となります。
実務における「はめあい公差」の決め方
実務における「はめあい公差」の決定には、現場の設備環境やトータルコストなど総合的な判断が求められます。
1. 「穴基準方式」を優先して検討する
はめあいは「穴」と「軸」の組み合わせで構成され、設計時には、穴の公差を先に決めてから、軸側を調整する「穴基準方式」が一般的です。
穴加工に用いるドリルやリーマは工具径が固定されているため、寸法の微調整が困難です。対照的に、旋盤による軸加工は、刃物の切り込み量の調整で外径を狙い寸法へ寄せやすい傾向があります。
そのため、加工難易度の高い穴側を「H7」などの標準公差で固定し、軸側で寸法を調整する「穴基準方式」は、コスト抑制の観点から非常に合理的です。
2. 求められる機能から公差域を選択する
はめあいの公差域は、部品の合体後に求められる「機能」を起点に行います。回転や摺動が必要な場合は「すきまばめ」、高精度な位置決めには「中間ばめ」、一体化してトルクを伝達するなら「しまりばめ」といった具合に、軸の公差域クラスを決定しましょう。
この際、単に理論上の数値を追うだけでなく、実稼働時の熱膨張や潤滑油の膜厚確保といった動的な状態を事前に考慮することが重要です。
3. 加工コストと精度のバランス(IT等級)を考慮する
公差の「幅」を決定するIT等級は、製造コストを左右する大きな要因です。等級の数字を小さくすれば精度は高まりますが、例えば「IT7」から「IT6」へ1段階上げるだけで、部品サイズや材料・加工設備によっては「旋盤仕上げ」から「研削加工」が必要になる場合があり、コストが大きく増加することがあります。
実務においては、「機能を満たす範囲で最も緩い等級」を選択することが重要です。一般的な機械部品では、穴は「H7」、軸は「h6」や「g6」といったIT6〜7級が標準的です。
はめあい公差の計算方法
はめあいの設計において、数値ベースで「すきま」や「しめしろ」を算出することで、設計意図通りの機能が発揮されるかを確認できます。基本となる計算式と「最大・最小値」の考え方を把握しておきましょう。
すきま・しめしろの計算式
はめあいの計算は、穴と軸の「実寸法の差」を確認することから始まります。穴が軸より大きい場合に生じる余裕を「すきま」、軸が穴より大きい場合に生じる重なりを「しめしろ」と呼びます。
例:すきまばめの場合(径が軸<穴のとき)
- 最大すきま = 穴の最大許容寸法 - 軸の最小許容寸法
- 最小すきま = 穴の最小許容寸法 - 軸の最大許容寸法
例:しまりばめの場合(径が軸>穴のとき)
- 最大しめしろ = 軸の最大許容寸法 - 穴の最小許容寸法
- 最小しめしろ = 軸の最小許容寸法 - 穴の最大許容寸法
実務では、基準寸法に「上の許容差」と「下の許容差」を加味して、最大・最小の加工寸法を算出します。そのうえで、「最もゆるい条件」と「最もきつい条件」の両極端な数値を導き出します。
実務で重要な「最大」と「最小」の把握
実務で重要になるのが、加工誤差の範囲内で生じうる「最もゆるい状態」と「最もきつい状態」の把握です。これらは製品が機能を維持できる限界点であり、以下の組み合わせで算出されます。
例:すきまばめの場合
- 最大すきま:穴が最大、軸が最小の組み合わせ → 最も「ゆるくなる」状態
- 最小すきま:穴が最小、軸が最大の組み合わせ → 最も「きつくなる」状態
例:しまりばめの場合
- 最小しめしろ:穴が最大、軸が最小の組み合わせ → 最も「ゆるくなる」状態
- 最大しめしろ:穴が最小、軸が最大の組み合わせ → 最も「きつくなる」状態
例えば「すきまばめ」の場合、「最大すきま」が許容されるガタつきを超えないかを確認し、「しまりばめ」なら「最大しめしろ」による圧入荷重が部品を破損させないかを検証します。この最大・最小値の検証が、高品質な製品開発を実現するためのポイントです。
はめあい公差を理解して製品性能を維持する
はめあい公差は、単なる寸法の指定にとどまらず、製品の信頼性と製造コストを左右する「設計の根幹」といえます。適切な公差設定は、組立の円滑化のみならず、長期間にわたる製品性能の維持に直結します。
具体的な部品構成や、はめあい設定で判断に迷う場合は、製造のプロフェッショナルへ相談するのも一つの手です。設計意図を正確に反映した高精度な部品製作を通じて、製品価値を高めていきましょう。
精密成形を可視化する「インテリジェントダイセット」の活用
設計段階で緻密にはめあいを規定しても、実際の成形現場では熱や荷重による刻一刻とした状況の変化が品質を左右します。ニチダイでは、こうした現場の課題に対し、AEセンサ等の各種センサを組み込んだ「インテリジェントダイセット」を展開しています。
荷重や変位などのデータを複合的に取得・解析することで、成形中の金型状態をリアルタイムに可視化し、異常の兆候を早期に捉えることが可能となります。こうしたデータ駆動型の管理は、高度なはめあい精度が求められる精密成形において、経験則に頼らないデータ主導の品質保証を目指す上で有効なアプローチです。
はめあい公差に関するよくあるご質問(FAQ)
ここでは、はめあい公差に関して多く寄せられる質問にお答えします。
Q.よく用いられる代表的な「H7/g6」はどんな状態ですか?
A. 精密な動きが必要な箇所に使われる「すきまばめ」です。ガタつきを抑えつつ、油潤滑があればスムーズに動くため、一般的な回転軸や精密機器に多用されます。
Q.ベアリングを取り付ける際の推奨公差は?
A. 一般的には穴(ハウジング)をH7、軸をk6やm6に設定することが多いですが、荷重の方向(内輪回転か外輪回転か)によって調整が必要です。回転する側の軌道輪は「しまりばめ」にするのが基本となります。
Q.IT等級を一つ上げるだけで、どのくらいコストが変わりますか?
A. 一律の答えはありませんが、加工方法が変更になる(例:ドリルからリーマ、旋盤から研磨)境界線では、部品サイズ・材料・ロット数・加工方法によって特にコストが跳ね上がる傾向があります。
例えば、IT8相当(ドリル加工)からIT7相当(リーマ仕上げ)に上げると工程が一つ追加され、さらにIT6以下(研削加工)になると設備・工程が大幅に変わるため、コスト増加が顕著になります。機能を満たす範囲でできるだけ緩い等級を選ぶのが設計の鉄則といえるでしょう。

