公差(こうさ)とは、最大許容寸法と最小許容寸法の差(許容範囲)のことです。
設計者が図面に記す数値一つで、製品の機能はもちろん、製造原価は大きく変動します。過剰な精度指定は不要なコスト増を招き、逆に甘すぎる設定は不良品の原因となるため、実務では「機能とコストの最適解」を導き出す判断力が求められるでしょう。
このコラムでは、公差の基礎知識から、実務で必須となる種類の使い分け、コストとの関係性まで、初心者の目線でわかりやすく解説します。
【この記事でわかること】
- 公差の定義と、なぜ公差が必要なのかという根本的な理由
- 寸法公差・幾何公差・一般公差といった、まず覚えるべき「3つの分類」
- 機能とコストのバランスを取るための実践的な公差の「範囲」の決め方
- 【応用】部品を組み合わせる際の「累積公差」の考え方
目次
公差とは、設計上で許容される寸法範囲
公差とは、最大許容寸法と最小許容寸法によって定められる許容される寸法のばらつきの幅(両者の差)のことです。
工作機械でモノを加工する際には、温度変化、工具摩耗、機械剛性、段取り誤差などの影響によって、図面寸法からのわずかなズレが発生します。
設計者はこの避けられない誤差を見越して、「どこまでの寸法のばらつきなら製品が正常に機能するか」を見極め、図面に明記する必要があります。
この指定を怠ると、現場では「どこまで丁寧に作れば良いか」が分からず、無駄な工数が発生したり、組めない部品が作られたりするリスクを招きかねません。
公差とは、設計上の理想と製造現場の現実をつなぐために設けられた、図面に必要不可欠な「意図されたゆとり」といえるでしょう。
「精度」「精密度」「公差」の違い
設計や加工の現場では、「精度が高い」「精密に作る」「公差が厳しい」といった言葉が混同されがちです。しかし、これらは意味も役割も異なります。
整理すると以下の通りです。
| 用語 | 何を表しているか | どの段階で決まるか | 実務での意味 |
|---|---|---|---|
| 精度 | 設計値への近さ | 加工・測定の結果 | 狙い通りに作れたか |
| 精密度 | ばらつきの小ささ | 工程・設備能力 | 安定して作れるか |
| 公差 | 許容されるズレの範囲 | 設計段階 | どこまでのズレを許容できるか |
精度は、加工された部品が設計図で指定された寸法や位置に、どれだけ近づけて作られているかを表します。設計値に対するズレの大きさを見る概念で、加工結果として評価される指標です。
一方、精密度は、同じ条件で作られた複数の部品がどれだけ揃っているか、つまり寸法のばらつきの小ささを指します。量産工程では、この安定性が品質を左右します。
これに対して公差は、設計者が「この範囲までのズレであれば機能上問題ない」と判断して定める許容条件です。公差内に収まっていれば製品として成立し、必要以上に厳しい設定はコスト増の原因になります。
まず覚えるべき公差の3つの種類
公差にはさまざまな考え方があります。設計図面を読み書きするうえで、まず押さえておきたいのが「寸法公差」「幾何公差」「一般公差」の3つの分類です。
それぞれの役割を理解することで、図面に込められた設計意図や要求品質を正確に読み取れるようになります。わかりやすく表にまとめました。
| 種類 | 管理するもの | 表記の例 | 実務のポイント |
|---|---|---|---|
| 寸法公差 | 大きさ(長さ・直径など) | 10±0.1 、H7 | 「穴と軸」の組み合わせ(はめあい)に重要 |
| 幾何公差 | カタチ(形状・位置・姿勢) | 平行度、位置度など | データム(基準)の設定が不可欠 |
| 一般公差 | 個別指示のない箇所すべて | JIS B 0405-m など | 図面を簡潔にする「共通ルール」。加工法に注意 |
※JIS B 0405の末尾の記号について
末尾の「-m」はJISで規定された公差等級(精度)を指します。等級には高精度加工向けのf(精級)、一般的な加工精度向けのm(中級)、粗加工向けのc(粗級)、非常に粗い加工向けのv(極粗級)の4種類があります。
「m」は、一般的な機械加工で標準的に得られる精度に適した公差であり、図面上で特に指定がない場合に適用されます。
それぞれ詳しく解説します。
①寸法公差(「大きさ」と「はめあい」の管理)
部品の長さ、幅、直径といった「サイズ」を管理する、最も基本的な公差です。
実務で特に重要なのが、部品同士が組み合わさる箇所の精度を管理する「はめあい(JIS B 0401-1:2016(ISO 286-1:2010に対応)に基づく公差方式)」です。
はめあいの種類や特徴を以下に整理しました。
| 種類 | 状態(隙間のキツさ) | 代表的な組み合わせ | 主な用途の例 |
|---|---|---|---|
| すきまばめ | 常に隙間がある状態 | H7 / g6 | 滑らかに回転・ スライドさせたい軸 |
| 中間ばめ | 隙間または締め代が 生じる状態 | H7 / k6 | 位置決めピンなど、 精度と分解性が求められる箇所 |
| しまりばめ | 常に締め代(重なり) がある状態 | H7 / p6 | プレス機等で圧入し、 完全に固定したい箇所 |
特に初心者の場合、数値をどう決めるか迷いがちですが、まず加工しやすい「穴基準(H7)」で考えることが定石です。穴の精度を「H7」に固定し、軸側の記号を変えることで、目的に合った「キツさ・ゆるさ」を調整します。
②幾何公差(「カタチ」と「位置」の管理)
寸法公差だけでは指示できない、部品の「ゆがみ」や「傾き」を管理します。
幾何公差を扱う上で不可欠なのが、測る際の「起点」となる「データム(基準)」です。「どの面に対して平行なのか」を明確にすることで、加工現場や検品担当者に正しい意図が伝わります。
ISO/GPSJIS規格では記号体系が整備されており、実務では主要な幾何特性に絞って運用されることが一般的です。
| 分類 | 規制する内容 | 代表的な記号 | データム |
|---|---|---|---|
| 形状公差 | 真っ直ぐか、 平らかなどの「形」 | 真直度(―)、平面度(⏥) | 不要 |
| 姿勢公差 | 基準に対して平行か、直角か | 平行度(∥)、直角度(⊥) | 必要 |
| 位置公差 | 基準に対してどこにあるか | 位置度(⌖)、同軸度(◎) | 必要 |
| 振れ公差 | 回転させた時の振れ | 円周振れ( | 必要 |
③一般公差(「その他大勢」を一括管理)
図面上のすべての寸法に個別の公差を書き込むと、図面が非常に見づらくなります。そこで、特段の指示がない部分の精度を一括で定めるのが「一般公差(普通公差)」です。
注記欄に「指示なき寸法公差はJIS B 0405-mによる」と記載するだけで、図面全体に「中級(m)」の品質を担保できます。
一般公差には「寸法の一般公差(JIS B 0405)」だけでなく、「幾何の一般公差(JIS B 0419)」も存在します。また、これらの規格は、主に金属の機械加工(切削加工)を前提として定められています。
・プレス加工なら「JIS B 0408」
・プラスチック成形なら「JIS K 7109」や「ISO 20457」など(慣例としてJIS B 0405を準用することもあるが、材質等に合わせた調整が必要)
といった具合に、材料や加工法に適した規格を選ばないと、現場で「達成不可能な精度」を要求することになり、トラブルの原因となります。
参考:
JIS規格の詳細は、日本産業標準調査会(JISC)のJIS検索ページで無料閲覧できます。
公差の範囲はどう決める?機能とコストのバランスを取る手順
ここでは、設計意図と製造現場の両方を踏まえながら、公差の範囲を合理的に決めていく手順を解説します。
ステップ1.部品の役割から「必要な精度」を考える
まず、その部品が製品の中でどのような役割を果たすのかを整理しましょう。
⚫︎サイズで管理する場合(寸法公差)
「軸と穴」のように部品同士が嵌まり合う箇所では、JIS規格に基づいた「はめあい公差」から選ぶのが定石です。
・すきまばめ(例:H7/g6):回転する軸など、動くことが前提の箇所。
・しまりばめ(例:H7/p6):圧入して固定し、力を伝えたい箇所。
⚫︎「動き」や「姿勢」を管理する場合(幾何公差)
単なるサイズだけでなく、「真っ直ぐ動かしたい(真直度)」「ガタつかずに密着させたい(平面度・平行度)」といった、機能そのものを保証したい時に幾何公差を検討します。
ステップ2.加工現場で「実現できる精度」を知る
設計者が求める理想の精度が、実際の工作機械で実現可能かどうかを把握しておくことも重要です。サイズ(寸法)だけでなく、形(幾何)の出しやすさも加工方法によって異なります。
| 加工方法 | 寸法精度の目安 | 幾何精度の得意・不得意 |
|---|---|---|
| NC旋盤・フライス | ±0.01∼±0.05 mm | 一般的な形状は得意だが、 長尺物の平行度などは工夫が必要 |
| マシニングセンター | ±0.003∼±0.02mm (高精度部品では±3∼5μm程度) | 位置度の精度が非常に高く、 複雑な形状加工に最適 |
| 研削加工 | ±0.002∼±0.01 mm | 平面度・直角度を極限まで高める際に必須 |
※数値は一般的な目安であり、機械性能・材料・加工条件によって変動します。
現場の実力を無視して「とりあえず幾何公差も厳しく付けておこう」とすると、測定や段取りの手間が増え、非常に高価な部品になってしまいます。
【応用編】部品を組み合わせる際の「累積公差」
複数の部品を組み合わせる設計では、個々の公差が重なり合う「累積公差」という概念があります。その算出については、例えば以下のような考え方もあります。
なぜ単純な足し算(ワーストケース法)だけではダメなのか?
複数の部品を組み立てる際、それぞれの公差が積み重なった状態(累積公差)を予測する必要があります。最も簡単な方法は、各部品の公差を単純に足し算する「ワーストケース法」です。
計算例:±0.1+±0.1=±0.2
この方法は、理論上100%組み立てを保証できますが、部品点数が増えるほど累積公差が巨大になり、個々の部品に過剰な高精度(=高コスト)を求めてしまう大きな欠点があります。
統計的手法を使ってコストを抑える「RSS法(二乗和平方根)」
RSS(二乗和平方根)法は、各部品のばらつきが統計的に独立していることを前提に、公差の積み上げを評価する手法です。100%保証ではありませんが、「コストと品質のバランスを取りやすい」点が特徴です。それぞれの公差を2乗して足し、その平方根を取ることで計算します。
計算例: 二乗和平方根法を用いた具体的な計算式やシミュレーション例については、以下のサイトで解説されています。
累積公差の計算例(二乗和平方根)
この方法を使うと、ワーストケース法よりも累積公差が小さく収まるため、個々の部品の公差を「適度に緩める」ことができ、コストを大幅に抑えられます。
ただし、統計上一定の割合で「組み立てられない組み合わせ」が発生するリスクを許容する必要があります。大量生産品において、全体のコストメリットを重視する場合に採用される、より実践的な手法です。
図面指示を最適化して「コストダウン」を実現するコツ
加工の難易度を意識した公差緩和の実践
公差とコストの関係は、ある数値を境に急上昇します。
例えば、通常の切削加工で対応できる公差を、さらに厳しい高精度領域まで引き上げると、研削加工やラップ加工が必要になり、コストが大きく跳ね上がるケースも少なくありません。機能を損なわない範囲で公差を緩和する判断が、製造原価に大きなインパクトを与えます。
データム(基準)を一致させて加工コストを抑える
図面上の「設計の基準(データム)」と、現場の「加工の基準」を一致させることも、重要なコストダウンの手法です。
加工のたびに部品を固定し直す(段取り替え)手間が発生しないよう、できるだけ共通の基準面から寸法を指示することで、加工効率は大きく向上します。
精密設計の可能性を広げる、最適な公差マネジメント
公差は、品質とコストの均衡を図るための指標です。寸法・幾何・一般公差の3つを適切に使い分けることは、設計意図を正確に現場へ伝える上で欠かせません。
実務においては、機能維持と製造のしやすさの両面から、最適な公差範囲を見極める視点が求められます。累積公差の算出でコストとリスクを考慮し、加工基準に合わせたデータムを設定するといった配慮は、設計段階で製造コストを抑える有効な手法です。
正確な公差設計は、単なる表記ルールではなく、製品の市場価値を高めるクリエイティブな仕事となるはずです。特にミクロン単位の精度が求められる領域では、設計段階から製造特性を理解したパートナー選びが重要になります。
株式会社ニチダイは、精密鍛造・金型製作の技術を核に、お客様の設計を高品質かつ効率的に具現化するパートナーです。
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「公差」に関するよくある質問(FAQ)
ここでは、公差に関して多く寄せられる質問にお答えします。
Q. 公差を厳しくすれば、製品の品質は必ず上がりますか?
A. 機能上の精度は高まりますが、製造面でのリスクも増大します。 必要以上に厳しい公差の設定は、加工難易度を押し上げ、コストアップや納期遅延を招く要因となり得ます。製品に求められる機能を維持できる範囲内で、可能な限り公差を緩める判断が、安定した製造とコスト抑制には有効です。
Q. 穴の公差でよく見る「H7」などの記号には、どんな意味があるのですか?
A.JIS規格(はめあい公差)に基づき、寸法許容差の「位置」と「大きさ」を記号化したものです。 アルファベットは大文字が「穴」、小文字(g6など)が「軸」を指し、基準寸法に対してプラス・マイナスどちら側にズレるかを示しています。また数字は精度の等級を表します。実務では、加工難易度が高い穴側を「H7」に固定し、軸側の記号を変えることで「隙間」や「締め代」を調整する手法が広く用いられています。
【補足】公差記号の読み方
はめあい公差の記号(H7、g6など)を構成する各要素の意味は以下の通りです。
| 項目 | 記号の例 | 表している内容 |
|---|---|---|
| 穴・軸の区別 | 大文字(H) / 小文字(g) | 大文字は「穴」、小文字は「軸」を指す |
| 公差域の位置 | アルファベット(A〜ZC) | 基準寸法からのズレの方向を示す(例:穴の場合、A側が+、Hが基準、ZC側が-) |
| 精度の等級 | 数字(6、7など) | 公差の幅。数字が小さいほど高精度 |
Q.寸法公差(±0.1など)を守っていれば、カタチが歪んでいても合格になりますか?
A.特記なき場合、寸法と形状(幾何偏差)は独立して評価されるのが一般的です。JIS B 0024(独立の原則)では、寸法が規格内であっても、真円度や平面度といった形状の歪みは制限されません。そのため、寸法は合格でも「ベアリングが入らない」「摺動部がガタつく」といった問題が発生するケースがあります。これらを防ぐには、幾何公差による規制を個別に検討する必要があります。
Q. 一般的な金属加工において、どの程度の数値からが「厳しい公差」とされるのでしょうか?
A. 加工方法や部品のサイズによって異なりますが、一般的な切削加工では、JIS B 0405の普通公差(中級)で±0.1~0.3mm程度が標準的な範囲とされています。±0.05mm以下になると精密加工として扱われることが多く、±0.01mm(10ミクロン)以下ではより高度な加工技術が求められる場合があります。なお、得られる精度は使用する設備や部品の形状によって変動します。

