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疲労破壊とは?メカニズムと寿命の計算方法・対策を解説

疲労破壊とは?メカニズムと寿命の計算方法・対策を解説

疲労破壊とは、材料の引張強さや降伏点(降伏応力)を下回るような小さな応力であっても、繰り返し負荷がかかることで微細なき裂が発生・進展し、最終的に破断に至る現象です 。破断する直前まで目に見える変形がほとんど現れないため、外観からは前兆を察知しにくいという性質があります 。 

設計段階でこのリスクを正しく評価し、適切な対策を講じることは、製品の信頼性を守る上で欠かせません。本コラムでは、疲労破壊が起こる微視的なメカニズムから、寿命評価に不可欠なS-N曲線の見方、そして設計・製造現場で実践できる具体的な防止策までを体系的に解説します。

【この記事でわかること】

  • 疲労破壊が発生し、進展していく3つの段階(起点・進展・最終破断)
  • 鉄鋼とアルミで異なる「疲労限度」の考え方とS-N曲線の活用法
  • 寿命計算に影響を及ぼす「応力集中」や「平均応力」などの諸因子
  • ショットピーニングや形状改善による、実務的な疲労破壊の防止策

疲労破壊の定義と他の破壊形態との違い

疲労破壊を理解する第一歩は、それが一般的な「一度の大きな力で壊れる現象」とは本質的に異なることを把握することです。

なぜ「引張強度以下」の荷重で壊れるのか

通常、機械設計においては材料の「降伏応力」や「引張強度」を基準に強度を計算します。しかし、疲労破壊はこれらの基準値を下回る弾性変形範囲内の荷重であっても、繰り返し負荷されることで発生します。

また、破断する直前まで目に見える大きな塑性変形(伸びや曲がり)がほとんど現れないため、外観からは損傷の進行を察知しにくいという工学的な性質を持っています。

「破壊形態の比較」疲労・延性・脆性の見分け方

不具合が発生した際、その原因を特定するためには「破面(断面)」や「変形の有無」を観察することが不可欠です。代表的な3つの破壊形態の特徴を以下の表に整理しました。

【代表的な破壊形態とその特徴】

比較項目疲労破壊延性破壊脆性破壊
主な原因繰り返しの荷重引張強度を超える過大荷重衝撃や低温下の過大荷重
破断前の変形ほとんどない著しい塑性変形(伸び・絞り)ほとんどない
破面の特徴ストライエーション、ビーチマークディンプル(微小なくぼみ)へき開面(キラキラした結晶面)
応力レベル降伏応力以下でも発生引張強度引張強度

参考:金属製品の破損について(疲労破壊)(新潟県工業技術総合研究所)
※疲労破壊の定義や、金属製品における事故統計が詳しく解説されています。

関連記事:延性破壊とは?脆性破壊との違い、冷間鍛造で発生する要因や予防について

疲労破壊のメカニズムと破断に至る3つのプロセス

疲労破壊はある日突然一気に起こる現象ではなく、時間の経過や荷重の繰り返し回数に応じて段階的に進行します。一般に、そのプロセスは「き裂の発生」「き裂の進展」「最終破断」という3つの段階(プロセス)に分けられます。

各段階における材料の状態と、断面(破面)に現れる特徴を整理すると以下のようになります。

【疲労破壊の進行プロセスと特徴】

段階プロセスの名称材料の状態・起きていること破面(断面)の特徴
第Ⅰ段階き裂の発生応力集中部などを起点に、微細な「すべり」が生じる。極めて微細であり、目視での確認は困難。
第Ⅱ段階き裂の進展繰り返し荷重によってき裂が深部へ成長する。ストライエーションビーチマークが形成される。
第Ⅲ段階最終破断有効断面積が減少し、一気に破断する。静的破壊と同様の様相(ディンプル等)を示す。

第Ⅰ段階:微小き裂の発生(起点)

疲労破壊の第一歩は、材料表面のわずかな欠陥や応力集中部から始まります。ネジの谷部、穴の周囲、加工傷、あるいは材料内部の不純物(介在物)など、応力が局所的に高まる箇所が起点となります。

繰り返し荷重を受けると、材料内部では最大せん断応力方向に沿って原子層レベルの「すべり変形」が発生します。このすべりの繰り返しにより、表面に「突き出し(Extrusion)」や「入り込み(Intrusion)」と呼ばれる微細な凹凸が形成され、これが微小なき裂(クラック)へと成長していきます。

第Ⅱ段階:き裂の進展(成長と破面の特徴)

発生した微小なき裂は、繰り返される荷重のエネルギーを吸収しながら、材料の深部へと徐々に成長していきます。この段階で形成される特有の模様は、不具合調査において疲労破壊を特定する有力な手がかりとなります。

  • ストライエーション(Striations):電子顕微鏡レベルで観察される縞模様です。荷重の1サイクルごとにき裂がわずかに進展することで形成されます。
  • ビーチマーク(Beach Marks):荷重の変動や一時停止、環境の変化によって形成される円弧状の模様です。肉眼やルーペでも確認でき、き裂がどこから始まり、どの方向に進んだかを判断するのに役立ちます。

第Ⅲ段階:最終破断(寿命の終わり)

き裂が成長し続けると、部材が本来持っている「荷重を支えるための有効断面積」が次第に減少していきます。

残存した断面積では、負荷荷重を支えきれなくなった瞬間に、き裂が急激に伝播して破断に至ります。この最終破断面は、一回限りの過大荷重で壊れる際と同じ「静的破壊」の様相を示します。延性材料であれば、塑性変形を伴う「ディンプル」と呼ばれる微小なくぼみが観察されるのが一般的です。

関連記事:金型破損の原因と対策についてー寿命を延ばす予防アプローチ
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疲労寿命を予測するS-N曲線と疲労限度

疲労破壊のリスクを定量的に評価し、製品の寿命を予測するためには、材料が受ける「応力の大きさ」と、破断に至るまでの「繰り返しの回数」の相関関係を把握しなければなりません。この関係をグラフ化したものがS-N曲線(応力-寿命曲線)であり、機械設計における疲労評価の最も基本的な指標となります。

S-N曲線(応力-寿命曲線)の見方

S-N曲線は、多数の試験片を用いて異なる応力レベルで疲労試験を行い、その結果をプロットして作成されます。通常、縦軸に応力振幅(S)、横軸に破断までの繰り返し回数(N)をとり、横軸は対数グラフで表示されます。

  • 縦軸(S:Stress):材料に繰り返し加わる応力振幅を表します。
  • 横軸(N:Number of cycles):破断に至るまでの繰り返し回数を表します。
  • 曲線の傾向:負荷される応力が高いほど短い回数で破壊し、応力が低いほど長寿命になる右下がりの曲線を描きます。

鉄鋼と非鉄金属による疲労特性の違い

材料の種類によって、S-N曲線の形状には大きな違いがあります。特に「疲労限度」の有無は、設計思想そのものを左右する重要なポイントです。

【鉄鋼材料と非鉄金属の疲労特性の違い】

比較項目鉄鋼材料・チタンなどアルミニウム・銅など
疲労限度の有無ありなし
S-N曲線の形状10⁶ 〜10⁷ 回付近で曲線が水平になる。回数が増えるほど強度が低下し続ける。
設計の考え方疲労限度以下なら、理論上は無限寿命。想定寿命までの回数に基づき強度を選定する。

S-N曲線は、繰り返し回数(横軸)が増えるほど、材料が耐えられる応力(縦軸)が下がるため、通常は右下がりの曲線を描きます。

しかし、上記のグラフの青線(鉄鋼材料)で示されるように、ある応力レベルを下回ると、どれだけ繰り返し回数が増えてもそれ以上は耐えられる応力が低下しなくなり、グラフが真横(水平)に伸びるようになります。この、何度負荷を繰り返しても強度が低下しなくなる「グラフ上の平らな領域(一定の応力値)」のことを「疲労限度(σlim)」と呼びます。

一般に鉄鋼では、ある応力以下で この水平領域が現れますが 、アルミニウムや銅などの非鉄金属にはこの性質がありません。 そのため、非鉄金属の設計では、水平部を待つのではなく、あらかじめ設定した「製品寿命までの回数(一般に10⁷ 回や10⁸ 回)」における強度を基準とする、「有限寿命」の考え方で設計を行う必要があります。

参考:日本産業標準調査会(JISC) 規格番号:JIS Z 2273「金属材料の疲れ試験方法通則」
※日本産業規格における、疲労試験の標準的な実施方法とS-N曲線評価の基本原則です。

疲労寿命の計算に影響を及ぼす5つの因子

S-N曲線で得られるデータは、あくまで管理された条件下で作成された標準試験片に基づいています。実際の製品設計においては、部品の形状や使用環境、表面の状態が試験片とは大きく異なります。そのため、実務での寿命計算(疲労設計)においては、以下の5つの因子による補正を行うことが不可欠です。

1. 応力集中(形状因子)

ネジの谷部や穴の周囲、段差など、形状が急変する箇所では局所的に応力が増大します。これを「応力集中」と呼び、形状の不連続性が高いほど疲労破壊の起点となりやすくなります。設計時には応力集中係数 Kt を用いて、基準となる応力を補正して評価する必要があります。

2. 平均応力(応力振幅との関係)

疲労寿命を考える際は、繰り返される荷重の「変動」が主な要因となりますが、その変動がどのような応力範囲で行われているか(中心値はどこか)を把握することも重要です 。実務においては、以下の2つの指標を組み合わせて評価します。

  • 応力振幅 (σa) :繰り返される応力の最大値と最小値の差の半分(変動の幅)のことです 。疲労破壊を引き起こす直接的な要因であり、この値が大きいほど材料内部の損傷は早く進みます。
  • 平均応力 (σm):繰り返される応力の「変動の中心値」を指します 。

同じ応力振幅であっても、中心となる平均応力が「引張側」にあるか「圧縮側」にあるかによって、疲労寿命は変化します 。

  • 引張側の平均応力(プラスの影響): 常に材料を引き剥がそうとする力が加わっている状態です。微小なき裂を押し広げるように作用するため、同じ振幅の荷重であっても、疲労寿命を短くする原因となります 。
  • 圧縮側の平均応力(マイナスの影響): 材料を常に押し潰そうとする力が加わっている状態です。発生したき裂の進展を遅らせるため、き裂が広がりにくくなり、疲労寿命を延ばす効果が期待できます 。

実務へのヒント: 「ショットピーニング」などの表面処理は、この原理を利用しています。材料表面に「圧縮側の平均応力(圧縮残留応力)」をあらかじめ付与しておくことで、疲労強度を高めることが可能です 。

3. 表面状態(表面粗さ)

疲労破壊の多くは表面から発生するため、表面の仕上がり状態が寿命を左右します。表面が粗く加工傷などがある部品は、その微細な凹凸が応力集中の起点となるため、研磨された滑らかな表面に比べて疲労強度は大幅に低下します。

4. 寸法効果(サイズ効果)

試験片のような小さな部材に比べ、実際の大型部品では疲労強度が低下する傾向が見られます。これは部材が大きくなるほど、材料内部に確率的に微細な欠陥や不純物が含まれる可能性が高まり、破壊の起点が増えるためと考えられています。

5. 環境因子(腐食・温度)

水分や化学物質による腐食環境下では、腐食作用がき裂の進展を加速させる「腐食疲労」が発生します。このような環境下では、鉄鋼材料であっても疲労限度が消失し、寿命が著しく低下することがあるため、特別な注意が必要です。

疲労破壊を未然に防ぐ具体的な対策

疲労破壊を防止するためには、設計段階での形状の工夫と、製造段階での材料特性の向上の両面からアプローチすることが不可欠です。ここでは、応力集中を抑える設計手法や、部材の寿命を飛躍的に延ばす最新の表面処理技術について解説します。

設計上の工夫による応力集中の緩和

形状の急変を避け、力の流れ(応力の流れ)をスムーズにすることが疲労設計の基本です。

  • R(アール)の付加による応力分散:段差やネジの谷部、穴の周囲などの形状が急変する箇所には、できるだけ大きな丸み(R)をつけ、局部的な応力集中を分散させます。
  • 断面形状の最適化:応力が特定の箇所に過剰に溜まらないよう、断面形状をなだらかに変化させ、不自然な荷重の偏りを排除します。
  • 損傷許容設計の導入:重量制限などの都合で無限寿命の確保が難しい場合、あらかじめ微小なき裂の発生を前提とし、破断前に確実に発見・交換できるよう点検期間を設定する設計手法も検討されます。

製造・表面処理による耐疲労性の向上

材料の表面を物理的・化学的に強化し、き裂の発生そのものを抑制したり、進展を遅らせたりする手法が有効です。

【代表的な疲労破壊対策とその効果】

対策の手法具体的な内容疲労強度への効果
ショットピーニング表面に鋼球などを高速で打ち付ける。圧縮残留応力を付与し、き裂の進展を強力に抑える。
表面硬化処理浸炭、窒化、高周波焼入れ等。表面の硬度を上げ、き裂の発生自体を困難にする。
表面仕上げの向上研磨加工等で表面を平滑にする。応力集中の起点となる加工傷や微細な凹凸を排除する。
CAE解析の活用有限要素法(FEM)によるシミュレーション。応力集中箇所を事前に可視化し、設計の弱点を補強する。

特に、ショットピーニングによって表面に「圧縮」の力を残しておく手法は、疲労破壊の主要因である引張応力を相殺するため、実務において非常に高い効果を発揮します。

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疲労破壊の理解と防止は製品の信頼性確保に不可欠

疲労破壊は、材料特性、形状設計、製造工程のすべてが複雑に絡み合う現象です。製品の信頼性を高めるためには、単に「引張強度の強い材料」を選ぶだけでは不十分であり、応力集中の緩和や適切な熱処理、表面仕上げをトータルで考慮した設計・製造が求められます。

本記事で解説したポイントを、日々の設計や品質管理の業務にお役立てください。

  • 現象の正体:引張強度以下の小さな荷重でも、繰り返しの負荷によって微小なき裂が進展し、最終的に破断に至る。
  • 破面のサイン:ストライエーションやビーチマークといった疲労特有の模様を観察することで、破壊の原因や進展プロセスを特定できる。
  • S-N曲線の活用:鉄鋼材料には「疲労限度」があるが、アルミニウムなどの非鉄金属には存在しないため、材料ごとに設計思想を使い分ける必要がある。
  • 多角的な対策:形状の丸み(R)による応力緩和や、ショットピーニングによる圧縮残留応力の付与など、多角的なアプローチが有効である。

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疲労破壊に関するよくある質問(FAQ)

疲労破壊の設計や不具合調査において、現場の技術者からよく寄せられる質問をまとめました。実務での判断や対策の検討に役立ててください。

Q. 疲労破壊の兆候を事前に発見する方法はありますか

A. 疲労破壊は破断の直前まで目に見える塑性変形がほとんどないため、肉眼での早期発見は非常に困難です。そのため、定期的な点検において以下のような非破壊検査を実施することが推奨されます。

  • 磁粉探傷検査(MT):鉄系材料の表面付近にある微小なき裂を磁性粉で可視化する手法
  • 浸透探傷検査(PT):表面に開口したき裂に液体を浸透させて検出する手法
  • 超音波探傷検査(UT):超音波の反射を利用して内部のき裂や欠陥を特定する手法

不具合発生後であれば、断面の「ビーチマーク」や「ストライエーション」を観察することで、破壊の起点や進展のプロセスを特定し、再発防止に繋げることが可能です。

Q. 高周期疲労(HCF)と低周期疲労(LCF)は何が違うのですか

A. 主に、破断に至るまでの「繰り返し回数」と、加わっている「応力のレベル」によって分類されます。

【高周期疲労と低周期疲労の比較】

比較項目高周期疲労(HCF)低周期疲労(LCF)
繰り返し回数およそ 10⁴~10⁵ 回以上数回~数千回程度
応力のレベル弾性範囲内(降伏応力未満)塑性範囲内(降伏応力を超える)
主な要因微小な振動、高速回転など過酷な起動・停止、熱サイクルなど

Q. 材料を硬くすれば必ず疲労にも強くなりますか

A. 一般的に、引張強度(硬さ)が高くなれば疲労強度も向上する傾向にあります。しかし、材料を硬くしすぎると、わずかな加工傷や内部不純物から一気にき裂が進展しやすくなる「欠陥感受性」が高まるという側面もあります。 そのため、疲労対策においては単に硬度を追うだけでなく、粘り強さ(靭性)とのバランスや、ショットピーニング等による表面の圧縮残留応力の付与を組み合わせて検討することが重要です。

Q. ネジやボルトが疲労破壊しやすいのはなぜですか

A. ネジの谷部は形状的に急激な変化があるため、構造上、大きな「応力集中」が発生しやすい箇所だからです。 また、締結時の軸力が不適切でボルトに緩みが生じると、本来受けるべきではない繰り返し荷重(曲げ応力など)が加わるようになり、疲労折損のリスクが急激に高まります。適切なトルク管理と、応力集中を考慮したR(丸み)の設計が不可欠です。

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