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延性破壊とは?脆性破壊との違い、冷間鍛造で発生する要因や予防について

延性破壊とは?脆性破壊との違い、冷間鍛造で発生する要因や予防について

冷間鍛造における「延性(えんせい)破壊」とは、加工中に材料が変形能力の限界を超え、亀裂や割れが発生する現象を指します。据込み加工での表面割れや、押出し加工での中心割れ(シェブロンクラック)などが代表的です。
本コラムでは、延性破壊の特徴や主な要因、CAE解析を活用した予防法について紹介します。

【この記事でわかること】

  • 冷間鍛造における延性破壊の特徴
  • 延性破壊と脆性破壊の違い
  • 冷間鍛造で延性破壊を引き起こす主な要因
  • CAE解析(シミュレーション)を活用した割れ予測と未然防止の考え方

延性破壊とは?材料が大きく変形して割れる現象

金属材料が外から力を受けた際、材料が大きく変形して割れる現象が延性破壊です。冷間鍛造の現場では、加工の初期段階である「据込み」での表面割れや、段付き棒材の「繰返し前方押出し」で発生する中心割れ(シェブロンクラック)として現れます。

【一覧表で比較】延性破壊と脆性破壊の主な違い

延性破壊、脆性(ぜいせい)破壊の発生環境や破壊のメカニズムを一覧で整理しました。

破壊様式発生環境破壊のメカニズム破面や外観の特徴
延性破壊成形加工中(変形時)微小孔(ボイド)や微小クラックなど破壊の核の発生、それらの成長,合体による巨視的な分離の過程引張試験では「凹凸(ディンプル)」が見られる
脆性破壊衝撃負荷時や高温多湿、置き割れなど塑性変形をほとんど伴わず、へき開・粒界などによるき裂の急速な進展で破壊する比較的平坦で、引っ張った方向に対して、45°面の方向に亀裂が入ることが多い。機械構造部品については、破面は銀白色の反射色調がみられる。

この一覧から分かるように、同じ「割れ」でも、発生環境と内部でどのようにき裂が進展するか(破壊のメカニズム)、そして破面の見え方が大きく異なります。延性破壊は大きな変形を伴う加工割れ、脆性破壊は変形の少ない突発的な破断という整理でイメージしておくと、原因の切り分けがしやすくなります。

冷間鍛造で延性破壊(割れ)を引き起こす主な要因

冷間鍛造の現場で発生する延性破壊は、主に「材料内部の微視的な組織変化」と「加工中に発生する複雑な応力」によって引き起こされます。ここでは、代表的な3つの要因を解説します。

原因1:介在物などを起点とする「ボイド」の発生・成長

金属材料に塑性変形が生じると、材料内部の介在物(不純物)や第二相粒子、結晶粒界といった組織の境界(界面)に、ミクロな変形のズレ(転位)や局所的な応力が集中します。その影響で微小な穴である「ボイド(空孔)」が発生し、加工が進むにつれてこのボイドは成長します。やがて隣り合うボイド間の素材が細くなって変形が集中し、これらが繋がり合うことで巨視的な割れ(破断)に至ります。
こうした理由から、材料中に介在物などの不純物が多いほど破壊の起点が増加するため、材料の延性が低下し、結果として割れやすくなります。

原因2:圧縮加工中に生じる「二次的な引張応力」

冷間鍛造の代表的な工程である「据込み」は、材料を上下から圧縮する加工ですが、圧縮率が上がり材料がたいこ状に膨らむにつれて、側面の表面には円周方向や軸方向へ引っ張られる力(引張応力)が二次的に発生します。
そのため、全体としては圧縮加工であっても、変形中に生じる二次的な引張応力が限界に達すると、最大せん断応力面に沿って表面に直角や斜め45度の亀裂が入る「表面割れ(縦割れ・斜め割れ)」が引き起こされます。

原因3:ボイドの成長を左右する「静水圧」の不足

原因1で触れたボイドの成長スピードは、加工中の応力状態、特に「静水圧」の大きさに強い影響を受けます。 静水圧が高い(周囲から均等に強く圧縮されている)状態では、ボイドの成長が強力に抑え込まれるため、材料が破断に至るまでの限界(破壊ひずみ)が大きく向上します。逆に言えば、静水圧が不十分であったり、引張応力が働きやすい加工条件であったりすると、ボイドが急速に成長・合体し、延性破壊を引き起こす要因となります。

CAE解析を活用した延性破壊の予防

冷間鍛造の工程設計は、設計者の過去の経験による判断に頼る部分が大きく、過去に類似品がない場合は「試作して割れたら条件を変える」という作業になりがちです。
このように、類似実績がない場合には試作と条件修正を繰り返す工程になりやすく、時間とコストの両面で大きな負担が生じます。

近年では、コンピュータ上で鍛造プロセスを再現するCAE解析(シミュレーション)技術が向上し、製品形状の確認だけでなく、成形中に材料が割れる延性破壊のリスクも事前に予測可能になっています。

目に見えない「応力履歴」の計算

これまでに触れた通り、延性破壊を防ぐには「加工中の素材各部にかかる応力履歴を計算し、引張応力の低い工程を見つけ出すこと」が重要です。しかし、実際の加工中に材料内部の応力がどのように変化しているかを目視することはできません。
そこで活躍するのがCAE解析です。
有限要素法(FEM)などを用いてコンピュータ上で加工プロセスをシミュレーションすることで、目に見えない応力の状態や履歴を詳細に計算し、事前に割れのリスクを予測するためのデータを取得することが可能になります。

「延性破壊条件式」を用いた割れの判定

有限要素法(FEM)を用いたシミュレーションでは、割れを予測するために「Cockcroft and Latham(コッククロフト・ラザム)」の式や「大矢根」の式といった「延性破壊条件式」が代表的に用いられます。これらは応力とひずみ履歴の関係式であり、解析によって算出された数値から、材料に蓄積された「ダメージ値(C)」を計算することができます。

ダメージ値の可視化とシミュレーション上の表現

解析を実行する前に、あらかじめ材料が破壊に至る限界のダメージ値(Ccr)を設定しておきます。シミュレーション中に計算されたダメージ値がこの限界値に達した時点で、その部分に「割れが発生した」と判定されます。 解析ソフトの画面上では、割れと判定された要素を取り除いたり、節点を分離させたりすることで、実際の割れ現象を目に見える形で表現します。

このようにシミュレーションを活用することで、満足のいく鍛造品が得られるまで実際の試作を繰り返すことによるコストアップを防ぐことができます。金型を製作する前の設計段階で適用すれば、工程設計や型設計の効率化を図り、事前の試作回数を大幅に減らすことが可能です。

ただし、シミュレーションを実行する際には、「何のためにシミュレーションを実施するのか」「何を得ようとするのか」という目的を明らかにすることが重要です。
目的が曖昧なまま解析を行っても、実際の工程設計に活かせない可能性があります。

関連記事:CAE解析とは?種類・メリット・事例までわかりやすく解説

延性破壊はデータに基づく「未然防止」が重要

冷間鍛造において、狙い通りの成形結果を得るまで試作を重ねる方法では、コストや工期の負担が大きくなります。延性破壊は、材料の組織や介在物、そして加工中の応力状態など、複数の要因が絡み合って引き起こされます。

そのため、材料特性や応力状態を正しく把握したうえで、CAE解析を活用して割れリスクを事前に評価することが有効な手段となります。トラブルが起きてから対処するのではなく、シミュレーションによる「未然防止」を取り入れることは、無駄な試作の削減や開発の効率化において大きなメリットをもたらすでしょう。

参考:

小坂田 宏造「冷間鍛造用鋼の延性破壊」塑性と加工 58巻 674号 2017年 (J-STAGE/全文閲覧には会員登録が必要)

石川 孝司「冷間鍛造における材料の割れ予測」 53 巻 620 号 2012 年(J-STAGE/全文閲覧には会員登録が必要)

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延性破壊という複雑な現象を未然に防ぐには、材料や工程などを考慮した高度な設計が欠かせません。
冷間鍛造金型のリーディングカンパニーであるニチダイでは、業界に先駆けて導入したCAE解析システムを活用し、設計段階で「割れ」のリスクを徹底的に評価します。さらに、自社保有のプレス機を使用し、開発試作から量産までをワンストップで提供する「トータルエンジニアリング」により、お客様の課題を解決します。

冷間鍛造の割れや工程設計でお困りの際は、ぜひニチダイにご相談ください。

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「延性破壊」に関するよくある質問(FAQ

ここでは、延性破壊に関して多く寄せられる質問にお答えします。

Q. 延性破壊と脆性破壊、現場で簡単に見分ける方法はありますか?

A. 最も分かりやすい指標は、破断面周辺の変形の有無です。部品が大きく伸びたり曲がったりしていれば延性破壊、変形がほとんどなくスパッと割れていれば脆性破壊の可能性が高いと判断できます。

Q. 延性の高い材料を使えば、延性破壊は絶対に起きないのですか?

A. いいえ、起きる可能性はあります。現場では生産性を高めるために、常に材料の成形限界に近い厳しい条件で加工が行われています。そのため、材料を変えるだけでなく、事前のシミュレーション(工程設計)で応力履歴やダメージ値を評価し、割れのリスクを予測することが重要になります。

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